サリー・ホーキンス主演映画の『シェイプ・オブ・ウォーター』じゃないほう。アシュリング・ウォルシュ監督作品『しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス』をキネカ大森で観ました。
1930~70年代、カナダ東部ノバスコシア州の港町マーシャルタウン。若年性関節リウマチで四肢に軽い障がいを持つモード・ダウリー(サリー・ホーキンス)。兄チャールズ(ザカリー・ベネット)が借金の肩に生家を売却したため叔母アイダ(ガブリエル・ローズ)の世話になっていたが、厄介者扱いされる日々であった。
ある日立ち寄った雑貨店で家政婦を探している魚の行商人エベレット・ルイス(イーサン・ホーク)と出会う。孤児院出身で無学で粗野。貧しい小屋に強引に押しかけ住み込みで働くことになる。
原題は"Maudie"。カナダのナイーブ派の画家モード・ルイスの実話は邦題から想像されるような胸キュンほんわかストーリーではありません。生活は厳しく、貧困と偏見、無理解と暴力に満ちています。タフな環境下、不器用なふたりが、反目し合いながら何十年という時間をかけて互いを思いやるようになる。
主演ふたりの真に迫る演技にウォルシュ監督のオーセンティックかつセンシティブな演出が光ります。海辺の寂しい一本道。エベレットの行商の手押し車をびっこを引きながら必死で追いかけるモード。次には並んで歩くふたり。しばらく経つと手押し車に乗せて運ばれるモード。ロングショットを夕日の逆光がまぶしく照らします。
はじめは読み書きできなかったエベレットが物語の終盤では自分たちの新聞記事を読むことができるようになっている。晩年症状が進行して不自由な指で絵筆を握るモードが一瞬口ずさむのはザ・ビートルズの"Let It Be" でしょうか。
カナダの至宝カウボーイ・ジャンキーズのマイケル・ティミンズが担当したサウンドトラックが素晴らしいです。ほぼギターインストですが、ニューヨーカーのサンドラ(カリ・マチェット)にはじめて絵の注文をもらうシーンでかかる Mary Margaret O' Hara でスクリーンいっぱいに色彩が溢れる。
モードとエベレット本人たちがモノクロフィルムで登場するエンドロールで懐かしいマーゴ・ティミンズの歌声が流れます。1988年の奇跡の名盤 "The Trinity Session" には何度も何度も孤独な夜を救われました。
0 件のコメント:
コメントを投稿