2015年2月28日土曜日

解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話

空気が急に春めいてきて、戸惑っています。三軒茶屋シアタートラムで、趣向オノマリコ脚本、稲葉賀恵演出の舞台『解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話』を観ました。

ところどころ砂の撒かれた舞台に、壊れかけた木製の椅子が積み上げられている。場面は東京のとある私立女子大学。大正時代に建てられたチェコ・キュビズム建築の旧体育館が解体されようとしている。

舞台には女優だけ。入学式に始まり、卒業式で終わる。4年間の物語を演じます。8人の登場人物は、息吹(清水葉月)、敬虔(藤井咲有里)、奔放(稲継美保)、哲学(深谷美歩)、癇癪(前東美菜子)、沈黙(朝比奈かず)、飴玉(窪田優)、平穏(増岡裕子)と名付けられ、各々の性格を象徴している。そしてひとりだけ名前を呼ばれることのない〇〇(上田桃子)。

台詞が詩的というよりも、登場人物のあいだに生まれて感情的に揺れる空気が詩的で、心地良い緊張感を生みます。演出も無駄なく、物語の核に直接切り込んでいく。音楽はほぼ鐘の音のみ(天井から吊り下げられた椅子が合図になって鳴らされる)。そして女優たちが良く走る。舞台を何周も全力疾走する姿になぜがこみ上げるものがありました。

後半、時間軸が治安維持法施行時と現代を行き来します。そこで明かされる平穏の過去の名が運動。「時間を勉強する学科」に通う〇〇は、「考える前にもうそこにいる音や光や人間たち。あんたは溶けていなくなる。甘い時間はすぐに終わる。残念だけど」と言う。彼女は女子学生たちを何十年も見守ってきた旧体育館であり、歴史そのものでもあるのでしょう。

舞台に撒かれた砂が効果的に使われています。哲学が指で砂に論文を書き続ける、その確かさと儚さ。天真爛漫な息吹が空中に放り投げる砂が落ちてくるときにまるでスローモーションのように光を反射して輝く。ここが本作の一番美しいシーンだと思います。

自分の学生時代の思い出すと9人のキャラクターの各要素がシチュエーションによって表に出ていたように思います。しいて言えば、沈黙と飴玉の時間が多かったかな。

僕の通っていた大学で一番大きな階段教室は中庭にあるピラミッド校舎と呼ばれる建築でした。1970年代にウルトラセブンとプロテ星人のバトルフィールドになり、ブラウン管のなかで破壊されましたが、実際に解体されたのはつい数年前のことです。国際法の講義を受けたときに見つけた机の落書きを自作の詩に引用したことを思い出しました。



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