森田芳光監督の遺作となったこの映画。主人公の鉄道ヲタク二人を松山ケンイチと瑛太が演じています。同じヲタクものでも、山田孝之主演の『電車男』(2005)の頃と比べるとだいぶこざっぱりとして。ヲタ自体市民権を得ましたよね。
松ケン演じる小町圭は丸の内の大手不動産会社のぞみ地所に務める営業マン。乗りテツで、車窓を眺めながらジャズを聴くのが好き。会社ではスーツをきちんと着こなして、女子にモテます。小玉健太役の瑛太は蒲田の中小金属加工業の二代目でパーツフェチ。仕事中は作業着ですが、プライベートではチェックのシャツを第一ボタンまで必ずかけている。
この映画の面白いところは、芝居の「間」です。いわゆるナチュラルな演技ではなく、舞台のお芝居とも違う。小津映画や初期の『男はつらいよ』みたいな、映画的としか言いようのない「間」。台詞まわしも「まあ、きれいなお花。ガーベラね」「すこし好きです」みたいな、映画でしか使われないシナリオ文体。東映映画ですが、往年の松竹喜劇映画へのオマージュといってもいいかもしれません。
主人公だけでなく、登場人物全員に列車の名前がつけられています。久大本線豊後森駅機関庫で偶然知り合った鉄道マニアの会社経営者筑後(ピエール瀧)の自宅で瑛太が、HOゲージの修理をするシーン。カメラのパンのタイミングで会話をキャッチボールする。客席にも緊張感と、それゆえの忍び笑いが。松ケンとヒロインあずさ(貫地谷しほり)が初めてデートするバーの場面であずさが眼鏡を掛け替える毎に鳴るバーテンのシェーカー音も同様。
その他随所に笑える効果音が、繊細に丁寧にちりばめられています。
また、筑肥線の黄色い一両編成のワンマンディーゼル車、京急の深い赤色に白いストライプの車体など、本当にチャーミング。走る列車の姿の愛らしさを伝えることにも成功しています。
物語の構造は、森繁久弥の『社長シリーズ』や植木等の『無責任男シリーズ』など、昭和のサラリーマンもの(最近では『釣りバカ日誌』?)を踏襲して、仕事のスキルではなく趣味や縁によって成功していくというもの。悪役が一人も出てこない幸せなストーリーは虚構そのものですが、映画を観る喜びが一杯に詰まっている。こんな楽しいコメディ作品を遺してこの世を去った森田監督に喝采を贈りたいです。
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