シネスコサイズの画面いっぱいに映し出されるカレイドスコープ。高架橋を渡る軽トラの助手席で万華鏡を除く5歳のイージン(ニーナ・イエ)は、母シューフェン(ジャネル・ツァイ)、長女イーアン(マー・シーユエン)と共に台北に帰ってきた。
シューフェンは通化街夜市の一角を借りて麺店を出し、イージンを四維幼稚園に入れる。イーアンは、原付でイージンの送り迎えをしながら、怪しい檳榔西施のアルバイトを始める。仕事で疲れて眠っているシューフェンの枕元の電話が鳴る。借金を残して失踪した夫が末期ガンで入院している病院を見舞うと、人工呼吸器につながれて話のできない状態だった。
幼いイージンは、保守的な祖父(アキオ・チェン)に左利きであることを咎められ「悪魔の手」と言われ気に病むが、やがて自身の左手を自身とは別人格として捉える。夜市でアクセサリーやぬいぐるみを左手で万引きするが、盗んだのは自分ではなく悪魔だと思い込むが、そのおかげで祖母の窮地を救ったりもする。
長く米国でインディーズ映画のプロデューサーを務め、オスカーとパルムドールをW受賞した『ANORA』のショーン・ベイカー監督と20年以上タッグを組んできたツォウ・シーチンの初監督作品です。ツォウ監督自身が台北出身(現在はアメリカ国籍)、左利きとのこと。本作の共同脚本、編集をベイカー監督が担っています。
生活に疲れ切ったシングルマザー、高校では学年TOP3の成績でビジュも女神だったが父親の失踪で人生詰んでやさぐれた娘、天真爛漫で狡さも併せ持つ少女という3人のメインキャストが、リアルな湿度感を伴い魅力的に描かれています。
父親を見舞って罵倒したイーアンに「もし今日のことをママに言ったらクレヨンを捨てるからね」と脅され瞼いっぱいに涙を溜めるイージンの愛くるしさ。2016年生まれのニーナ・イエは台湾の人気子役ということですが、芝居っぽさのない自然な表情を引き出したツォウ監督の演出の力もあると思います。
全編iPhoneによる撮影で、イージンの目線の低さで極彩色の夜市を駆け巡り、人物のクローズアップも通常のカメラより近くで撮れるため、微細な表情の変化だけでなく、肌の質感や息遣いまで伝わり、親密な感触の映像にすることに成功しています。画質も遜色ないですが、三姉妹と母親のアフタヌーンティと高級海鮮料理店における還暦祝いのシーンだけ若干解像度が落ちる気がしました。
本作は長姉イーアンの成長譚でもあります。ハイティーンという設定で超スレンダーボディにピンク・フロイドのホルターネックのマー・シーユエンはモデル出身なのかな。右上腕に2行の英文タトゥーは自前のようです。檳榔西施の後輩シャオピン(リズ・チェン)もかわいい。夜市の麺店の隣で怪しげな便利グッズを実演販売するジョニー(フランキー・ホァン)が心底いいやつで全力で応援したくなりました。


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