鈴川恒夫(中川大志)は大学4年生。バイト帰りの夜、制御不能になった車椅子で坂道を転げ落ちてきた山村クミ子(清原果耶)を助ける。生まれつき足の不自由なクミ子は愛読書フランソワーズ・サガンの『一年ののち』の主人公の名ジョゼを名乗り、川べりの家で祖母チヅ(松寺千恵美)と暮らしている。
市営地下鉄、JR環状線、市立中央図書館、造幣局、天王寺動物園、海遊館、千日前アーケード。馴染のある大阪の町並みを背景に世間と隔絶され性格のねじくれた口の悪いジョゼが時間をかけて心を開いていく基本的な構造は同じだが、田辺聖子の原作短編小説とも、2003年に犬童一心監督が池脇千鶴と妻夫木聡で撮ったロードムービー的な実写版とも異なるテイストです。
妻夫木聡の恒夫が、雀荘でバイトし、江口のりこと行き先のないセックスをする、無気力な大学生なのに対して、今作の中川大志の恒夫は、チューリングパターンを研究しながら、熱帯魚クラリオンエンゼルと泳ぎたくて、メキシコへの留学という目標を叶えるために、ダイビングショップと引っ越し屋のバイトを掛け持ちしている。ジョゼは絵を描くのが得意で、図書館で子どもたちに読み聞かせをしたのをきっかけに絵本作家になる夢を持つ。
虎は恐れ、魚たちは憧れの象徴か。夢をあきらめる若者たちをほろ苦さく描いた実写版も、公開当初は賛否がありましたが、年月が名作に押し上げた。好きは永遠だが、アンチは瞬く間に無関心に変わり、消えるものなのでしょう。
「怖うても管理人にだったらすがれるやろ」。大阪出身の清原果耶のこてこて過ぎないナチュラルな大阪弁と落ち着いた透明感のある声質が、傍若無人なジョゼの性格を和らげ、チャーミングなプリンセスとしてリアリティを与えています。
0 件のコメント:
コメントを投稿