舞台は現代の中華人民共和国チベット自治区。世界で二番目に大きい内陸塩湖である青海湖畔から近い草原で牧羊を生業とし親子三代で暮らす六人家族の物語です。
かつては共に暮らした馬を売ってバイクで移動している。祖父と父母は伝統的な装束、3人兄弟はジャージにスニーカーと、時代の波は避けることができない。それでも草原は広大で砂丘は白く空の青は濃く澄んでいる。
中国政府の一人っ子政策とチベット仏教の転生思想、出家した妹と世俗に生きる姉、遊牧と学校教育、様々な対立と矛盾を孕みながら生活は続く。公式サイトにアッバス・キアロスタミやウォン・カーウァイの名前が挙がっているように小説家でもあるペマ・ツェテン監督は映像美の作家なのだと思います。
試験管ベビー誕生のテレビニュースは1978年、祖父の突然の死を知らせるBlackBerry端末は1999年発表。これらが同時に画角に収まるのはリアリズムではない。ホワイトアウト気味の手持ちカメラで撮影された画面の連鎖は辺境の光景を収めた写真集をめくっているような感覚だが、その美しい光景の連鎖が図らずもすべてのシーンを別のシーンの隠喩にしている。
そして家族以外の会話のカットで画角の中央を垂直に横切る遮蔽物。柱だったり、暖房の煙突だったり、羊たちを洗浄する水路だったりするのですが、それが逆に家族の距離の近さを強調しています。
以前観た『ラサへの歩き方』よりも信仰の描き方がドライで、昔ながらのライフスタイルを懐古する向きもあるだろうが、そこには非人道的なジェンダー観がセットでついてくるので賛同しがたいのと、おっとり従順なイメージのある羊たちがとても俊敏に走り、飼い主にまったくなつかないのが印象的な映画でした。
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