1971年にノーベル文学賞を受賞した南米チリの国民的詩人パブロ・ネルーダ。彼をモデルにした映画といえば1994年公開マイケル・ラドフォード監督の名作『イル・ポスティーノ』ですが、伊ナポリ亡命中を描いた同作の前日潭ともいえる内容です。
1946年、チリ人民戦線のガブリエル・ビデラは共産党の支持を得て大統領選に勝利した。が一転、米国の強い圧力に屈して翌年共産党を非合法化。これを告発した共産党員ネルーダ(ルイス・ニェッコ)は上院議員資格を剥奪され、指名手配される。
ネルーダはアンダーグラウンドな支援者たちのサポートを受け、妻デリア(メルセデス・モラーン)とともに国外脱出を企てる。それを追うイケメンのキャリア警視ペルショノー(ガエル・ガルシア・ベルナル)。彼らの珍道中を詩的に抒情的に美しく描いています。
そして逃亡中とはいえネルーダの行動が奔放過ぎる。行く先々の街の酒場に出入りし、あるときは全裸の美女を何人もはべらせ自らも裸でシャンパンを空け、あるときはトーチソングを熱唱するトランスジェンダーの歌姫にせがまれて詩を朗読し熱いキスを受ける。娼館の年増女に化けたり、写真館の額縁に収まったりして追手をまく。そして先住民マプチェ族の襲来に怯えながら雪のアンデス山脈を越える。
「左翼エリートは乱痴気騒ぎが大好きだ」「共産党員は労働したがらない」。体制側の大農園主に見つかりお終いかと思いきや多額の税金を徴収する大統領への恨しみからネルーダを逃がしてくれたり。思想と感情に矛盾を抱えたまま流れ流されていく男たちに比べ、「私は真実で永遠なの」と言う妻デリアの確信的で堂々とした態度。
ネルーダの作風は、エロティックな恋愛詩と大地に根ざして民衆を鼓舞するポリティカルな詩が両輪ですが、どちらもパッショネイトであるという共通点において違和感がありません。
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