2012年8月11日土曜日

おおかみこどもの雨と雪

ダニー・ボイルが監督したロンドン五輪の開会式は、成熟した大人のエンターテインメントでした。もしも日本で開催するようなことになってしまったら細田守監督がいいな。そんな薄曇りの土曜日。ユナイテッドシネマ豊洲で『おおかみこどもの雨と雪』を観ました。

夜はクリーニング店でバイトしながら、国分寺の安アパートから国立の大学に通う花(声:宮崎あおい)は、モグリの聴講生と知り合い恋に落ちる。ところが彼は狼男で、生まれてきたふたりのこどもはおおかみこどもだった。感情が昂ぶったり、ちょっとしたきっかけでオオカミに姿を変えてしまう子供たちを都市で育てるのがだんだん困難になり、北アルプスの麓の古民家に転居する。

細田監督の前々作『時をかける少女』、前作『サマー・ウオーズ』はいずれも数日間の出来事を凝縮して描いた物語ですが、『おおかみこどもの雨と雪』のなかでは12年の時間が流れます。けっして短くない時間の経過のなかで、登場人物は成長し、価値観も、関係も変わります。

幼いころはわがままで好奇心旺盛、社交的な姉の雪は学校という人間社会にコミットすることで自らの居場所を確立しようとする。無口でメンタルの弱い弟の雨は森に入って行くことで野生の叡知を得ようとする。その手前。アイデンティティを確立するまえの、居心地良さに包まれた不安定な時間。この居心地良さが逆にくすぐったくて、かさぶたを剥がすように自分で壊したくなってしまう感じを、僕も記憶しています。

それを見守る母親の花は、上の画像の劇場チラシにみるような強い母親像ではありません。いつも不安で、迷っていて。でもけっして笑顔を絶やさず、後悔をしません。山にはじめて雪が積もった朝。うれしくて斜面を転げるように駆け下りながらオオカミの姿に変わる姉弟。それを追いかける花は人間。その姿はぎこちなく、不格好で、だからこそ愛おしい。

この作品の背景の自然描写の美しさは、ジブリ映画を超えたといっても過言ではありません。花が狼男の正体を知らされる街を見下ろす丘で吐く白い息。雪が生まれた夜に静かに街に舞い降りる雪片。何度も象徴的に画面に降る強い雨。雨上がりの蜘蛛巣についた水滴。鍋から立つ湯気。繊細な作画は日本のアニメーション技術の到達点を示しているのではないでしょうか。

そして丁寧に描かれたディテール。主人公の本棚の背表紙に、高野文子棒がいっぽん』、『草野心平詩集』、『林と思想』(宮沢賢治の詩作品の題名)を見つけました。『時をかける少女』『サマー・ウオーズ』に続いて、ヒロインの入浴シーンもちゃんとあります。

 

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