2025年1月3日金曜日

太陽と桃の歌

正月三日。TOHOシネマズ シャンテカルラ・シモン監督作品『太陽と桃の歌』を観ました。

スペイン・カタルーニャ地方の砂岩の傾斜地。貯水池のほとりに放置されている廃車で、末娘のイリス(アイネット・ジョウノ)と双子の従弟ペレ(ジョエル・ロビラ)とパウ(イザック・ロビラ)が逃走ごっこをして遊んでいると、ショベルカーが来てシトロエンを撤去してしまう。

幼い3人ががっかりして家に帰ると、祖父ロヘリオ(ジョゼ・アバッド)は借地契約書を探しているが見つからない。祖父の代から続いた続いた果樹園を伐採してソーラーパネルを設置するので管理人にならないか、と地主から言われ、納得のいかない父キメット(ジョルディ・プジョル・ドルセ)。

学生だが繁忙期は家業を手伝う長男ロジェ―(アルベルト・ボッシュ)は、夜はクラブに通い、大麻を栽培している。思春期の長女マリオナ(シェニア・ロゼ)は無口だが、収穫祭で友だちと披露するダンスの練習に余念がない。妻ドロルス(アンナ・オティン)、キメットの妹ナティ(モンセ・オロ)と夫シスコ(カルレス・カボス)は労力の割に利幅の少ない農業よりソーラーパネルに魅力を感じ、キメットと対立する。

デビュー作『悲しみに、こんにちは』で2017年のベルリン国際映画祭で新人監督賞を受賞し、第二作となる本作で同映画祭の最優秀賞である金熊賞を受賞したスペインの女性監督カルラ・シモン氏は38歳。自身の生家の実話をモチーフに社会と隔絶されたような家族経営の農家が否応なく時流に飲み込まれていく様を描いているという点においては、台湾の傅天余監督の『本日公休』にも通じます。

果樹園を荒らす鹿や無力な野うさぎなど、シモン監督は寓意の使い方が上手いなあ、と思いました。僕は故郷を出て東京で仕事をしているので、バルセロナで同性パートナーと暮らしている未婚の末妹グロリア(ベルタ・ピポ)の対立する兄妹のどちら側にもつかない(つけない)にポジションに感情移入して観ていました。

ガソリン車による開墾や輸送などCO2を排出する果樹園よりも、ソーラー発電のほうが見た目に反して環境負荷が少ないという現実があり、また大資本の買い叩きに対する抗議行動など社会活動に参加せざるを得なくなると、丁寧な暮らしという思想はファンタジーに過ぎないと思えてくる。その意味では、ご近所の噂かレシピの話しかしない祖母ペピタ(アントニア・カステルス)が一番幸福そうに見えます。

プロの俳優ではなく、9000人の一般人からオーディションで選んだという出演者たちの自然な演技が素晴らしいです。特に子役たちの、ひとつの遊び場を失ってもすぐに次の遊びを見つけ、全身全霊で取り組む姿に心打たれます。「子供らは困難に立ち向かいひたすら遊ぶ/うらやましい/もう三十だからということでさすがにやらないが」という奥田民生の「コーヒー」の歌詞が上映中に脳内でリピートしていました。

 

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