2020年9月22日火曜日

メイキング・オブ・モータウン

秋分の日。ヒューマントラストシネマ渋谷で、ベンジャミン・ターナー&ゲイブ・ターナー監督作品『メイキング・オブ・モータウン』を観ました。

自動車産業の中心地として爆発的な好景気に沸いていたミッドセンチュリーのミシガン州デトロイト。スラム街に育ったベリー・ゴーディ少年は黒人向けの新聞を街頭で売っていた。裕福な白人の住む市街地ならもっと売れるはずと考えそれは実際に成功した。翌日兄を誘ってふたりで白人街に出かけたが今度はさっぱり売れなかった。「黒人の子どもは一人ならかわいいが二人になると脅威だからだ」。

いくつか職を移り3Dレコードマートを開業して失敗したゴーディが次に狙ったのはレコード会社の設立。小さな建売住宅を買って1階をレコーディングスタジオと事務所に改装し、2階を住居とした。そして次々にヒットソングを世に出していった。

関わったミュージシャンやスタッフのインタビューを交え、モータウンレコードの創始者ゴーディとソングライターで歌手で共同経営者でもあったスモーキー・ロビンソンが当時を回想するドキュメンタリー映画ですが、アーティストのサクセスストーリーというよりはビジネスモデル創造を分析する色彩が濃い作りです。

フォード社の製造ラインでバイトした経験から分業制と徹底した工程管理によるクオリティコントロールを取り入れ、消費者に近い感覚を持つ事務方の合議による意思決定をアーティストのエゴより重視する。ゴーディ自身も曲を書くが、マーケットを開拓するためには、ホランド=ドジャー=ホランドアシュフォード&シンプソンホイットフィールドストロングら、大衆受けするソングライティングチームを使うことを厭わず、白人市場に切り込むとなればイタリア系の強面A&Rマンを雇い、実力ある女性たちを躊躇なく幹部登用する。

そういった計算がある一方、電話の取り次ぎの才能が認められ秘書として採用されたマーサ・リーヴスをたまたま歌わせたところ驚くべき歌唱力の持ち主でデビューさせるなど、偶然と直感もけっして軽視しない。

スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズザ・テンプテーションズフォー・トップスメアリー・ウェルズザ・マーヴェレッツ。きら星のごとく輝く才能が集まってくる。ジャクソン5のオーディションフィルムでは9歳のマイケルがすでにえげつないほど滑らかなムーンウォークを披露しています。

そしてクオリティ・コントロールからはみ出してしまう天才。マーヴィン・ゲイスティーヴィー・ワンダーは、役員と幹部社員による品質管理会議の反対をセルフプロデュース作品の音楽的革新性とセールスでねじ伏せてしまう。

"My Girl" と "What's Goin' On" という60年代、70年代を代表する2曲のマルチトラックを分解してサウンドの解析をするパートはテンションが上がります。両曲の印象的なベースラインはいずれもジェイムズ・ジェマーソンの仕事。フォード財団が文化貢献のために地元の公立校へチケットを配布していたデトロイト交響楽団の管弦楽の記憶が流麗なストリングスアレンジに影響を与えていたというのは目から鱗でした。

深南部のレビューツアーで経験した酷い人種差別は現代のBLMにも通ずるものだが、直接的な抗議行動には加担せず、融和的な浸透を企図する。お行儀良さそうに見えたダイアナ・ロス&ザ・スプリームスが、実は初期は相当パンキッシュで笑わないのを矯正し、エド・サリバン・ショーに出演しエリザベス女王に謁見したりできるほどに育成したことで、黒人の地位向上に貢献。故ホイットニー・ヒューストンが「すべてダイアナが切り開いてくれた道なの」と話すカットは泣かせます。


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