ジャズ界きっての眼鏡のイケメンピアニスト(左利き)ビル・エヴァンス(1929~1980)の生涯を、本人の演奏とインタビュー音声、近親者や共演者のインタビューで構成したドキュメンタリー映画です。
米国東海岸ニュージャージー州プレインフィールドでストラヴィンスキーを愛好した幼少期、ぽっちゃりで陽気な兄ハリーと共に笑う家族写真。大学で楽理を教わった恩師。朝鮮戦争期に徴兵されたが前線には出ず音楽部隊でピアノを弾いていた。
退役後NYに出る。月75ドルの安アパートに住み、週3回ブルックリンでピアノを弾いて稼ぎが55ドル、1stアルバムは800枚のセールスで惨敗、という短い下積みを経て、マイルス・デイヴィスのコンボに抜擢され大ブレイク。この頃からヘロインの常習が問題視されるようになった。自身のトリオのベーシスト、25歳のスコット・ラファロの突然の交通事故死が大きなきっかけとなりドラッグの沼にはまっていく。
しかしその生涯に発表した音楽はどれも優雅で穏やかで耽美でヘヴンリィな響きを持ち、現在も多くの人々に愛されています。映画の中で紹介される楽曲では"Peace Piece" のミニマリズムが殊更に美しい。
更生施設に入り一度は止めたヘロイン。次にコカインに手を染めたのは、自らが捨てた内縁の妻エレインと統合失調症を患った兄ハリーの相次ぐ自殺が一因だった。そしてビル自身も薬物依存の治療のため病院に向かう車の中で大量吐血します。死を看取った最後の恋人ローリー・ヴェコミンが言う「私は救われた気分で幸福だった。だってビルの苦しみが終わったんだもの」。
凄惨を極める後半生のエピソードに重なるスナップショットはどれもアメリカの裕福な白人家庭の光溢れる幸福な風景で、そのギャップが人生の過酷さをより浮き彫りにする。
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