日向第一小学校4年1組春山雪男(大西利空)が、公務員の父(宮藤官九郎)、専業主婦の母(寺島しのぶ)、小学生の妹(小菅汐梨)、猫のニャム(たまお)と暮す都内の2階建一軒家には父親の弟で哲学の非常勤講師のおじさん(松田龍平)が居候している。
「身近な大人について作文を書きましょう」。みのり先生(戸田恵梨香)から出された宿題に雪男は悩んだ末、おじさんのことを書き始める。
せこくて、やる気もお金もなくて、屁理屈をこねてばかりで、何も成し遂げないおじさん。それでもチャーミングに映るのは人の言葉を素直に受け取るからでしょうか。松田龍平のいつもどこか遠くを見ているような焦点の合わない目。
原作は1972年刊行の北杜夫の少年小説で、映画の舞台は現代に置き換えられていますが、台詞まわしは原作のまま。先月観たばかりの同じ山下監督の『オーバー・フェンス』はモノローグがまったくなく、役者の動きと表情で感情の襞を表現していました。対して本作には、雪男が作文を朗読する体裁でナレーションが入り、それがコミカルな味わいを醸し出しています。
特に東京を舞台にした前半は、おじさんのスローペースが周囲のスピード感とまったく合っておらず、そのギャップがいちいち面白い。画廊経営者役のキムラ緑子の下町出身らしい前のめりでせっかちさが溢れる芝居が光りますが、その光が照らす先はおじさん。後半のハワイロケは現地の時間の流れがゆっくりなせいか、おじさんが画面に馴染んでしまって少々間延びして見えましたが、風景はきれいです。
テレ東系深夜ドラマ、山田孝之主演『東京都北区赤羽』とはまた感触の異なるオフビートコメディの隠れた佳作として数年後にカルト化しそうな気がします。
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