2016年10月15日土曜日

絵と音と、流れる夜に

よく晴れた秋の土曜日の夕方。東京メトロ銀座線で外苑前まで。TAMBOURIN GALLERY で開催中のイケダユーコ個展[flow]、今夜は「絵と音と、流れる夜に」と題されたイケダユーコさんのライブドローイング、イシカワアユミさんの即興演奏を鑑賞しました。

まずグラスに生けた野の花のデッサンから。インクと水彩絵の具を用いて画用紙に描かれる確かな線と淡い色彩。イケダさんの手が早い。つけペンが画用紙に立てるガリガリと硬い音。しかし紙の上の植物の表情は柔らかい。あっという間に仕上げて2枚目に取りかかる。

今日一番大きな画用紙に幅広の刷毛でホリゾントからグラデーションをつけたボーダーを重ねていく。夕刻の空と地平線。その手前には細い茎の花の群生が風に揺れている。水平の刷毛跡に対して垂直に穿たれるペン先の音。水彩に重なりインクが滲んで広がる。

3枚目は不規則なドット。抽象の先に透けるぼやけた心象風景。4枚目、赤い色鉛筆で引かれる稜線。途中で色鉛筆の芯が折れ、その折れた短い芯を指先でつまんで稜線を引き続ける。

イシカワアユミさんがJuno-DSで奏でるリリカルでイノセントなピアノの分散和音。そして虫の声と線路と波の音のSEが重なり、アンビエントな通奏低音にグロッケンシュピールが散発的に鳴らされる夜の音楽へ。それに呼応して2枚目の夕景のボーダーに再び水彩とパステルでダークトーンが重ねられ、暗い海面に満月が現われる。約1時間のプログラム。

水彩画が描かれる過程とは、画用紙を濡らす水とその蒸発のことなんだな、と思いました。それが予期しない方向に進んでしまってもその偶発性を楽しみ、音楽はもちろん、周囲の気配やノイズ、時間の流れ、観客の動きに反応し、自分に引き寄せる気持ちの強さと懐の深さ。そして乾いた紙の上には痕跡としての描線と色彩だけが残る。ギャラリーを出れば空に満月。いいものを観ました。



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