薄暗い室内コートで女子選手がシャドーテニスをしている。クラブチーム・イロンデル(つばめ)に所属する15歳のジュリー(テッサ・バン・デン・ブルック)は将来を嘱望されているテニス選手。
クラブのマネジャーであるソフィ(クレール・ボドソン)が、ベルギーテニス協会による選抜歴のある選手アリーヌ(タマラ・トリコ)の自死を受けて、コーチのジェレミー(ローラン・カロン)が指導停止になり、バッキー(ピエール・ジェルベー)が代行することを選手たちに告げる。
コーチの指導に関する聴取が行われる中、ジェレミーと接点の多かったジュリーは沈黙を続け、新コーチとチームメイトのロール(グレース・ビオ)らと練習に打ち込み、協会の選抜試験に臨む。
ベルギーの社会派の巨匠ダルデンヌ兄弟が製作に加わった本作は、ベルギーの若手監督が、2021年のテニス全仏オープンにおいて大坂なおみ選手が「アスリートのメンタルヘルスに配慮が足りない」と取材拒否したことから着想し、大坂選手にインスタグラムのDMで連絡をとり賛同を得てエクゼクティブプロデューサーにクレジットされた。
自身もテニスプレイヤーであるテッサ・バン・デン・ブルックが演じる主人公ジュリーがとにかく喋らない。教室や練習後に友達と何気ない会話はするが、内心を明かすことがない。映画にドラマチックな抑揚を求める向きには物足りなさがあると思いますが、リアリティという面においては、本気のテニスシーンも相俟って、観るべき価値があります。
キャロライン・ショウの劇伴も効果的で、100分の上映時間に数秒間、ジュリーが飽和寸前の表情を見せるとき流れるヴォカリーズの緊迫感と聖性。言語化によってアイデンティティを保つことに慣れ過ぎてしまった私たちの価値観に波紋を投げかけています。
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