岡野勇仁さんのジャジーなピアノのイントロに導かれて始まった「茶の味」は4ビートのマイナースイング。岡野さんの解釈は偶数拍にアクセントを置いて更に拍裏をかすかに打つというもの。井上 "JUJU" ヒロシさんがパーカッシブなフルートで応え、アウトロは再び岡野さんのピアノでクラシカルに締める。
超スローな「時間の意図」は更にスローに、ミドルテンポの「シンキロウ」は間奏とエンディングのピアノとフルートの掛け合いが見せ場ですが、岡野さんは涼しい顔でカウンターメロディを鼻歌で歌っています。いつも以上にゆったりしたリズムにChiminさんの伸びのある歌声が乗り、会場は微熱を帯びる。
オルタナティブな響きを持つアンビエントナンバー「夜」はずっと真冬のイメージで聴いていましたが、JUJUさんのアルトサックスの甘い音色と岡野さんの拍節感をあえて排除したピアノに、初秋の夜の湿度を感じます。そしてChiminさんのギター弾き語りで「目と目」「アリラン」。
「自分の調子が良いときは満たされない気持ちになり、あれが足りない、これが欲しいとなるが、体調が悪かったり、大事な人が怪我をしたりすると逆に、自分が満たされていたことに気づく」と話すChiminさんの歌声には嘘がない。裏はないのに果てが見通せない原野が見える。それが岡野さんの全体にややテンポを落とした柔らかいピアノによって眼前に広がるように思いました。
この日最後に歌った「やさしくありたい」には「この手で、守りたいと/初めて思った」という歌詞があります。凡百のJ-POPで歌われる「守りたい」とは多くの場合、その対象に心理的もしくは経済的安定を提供するという意味で漠然と聴き「人が人を守るってなんだよ」とシニカルな気持ちになってしまうのですが、Chiminさんが「守りたい」と歌うとき僕には、そこに具体的な脅威や恐怖が感じられるのです。
それら脅威や恐怖を心地良さに置き換えてしまうのは不謹慎な気もするのですが、それを許すのが音楽の力だとも思うのでした。
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