2024年9月29日日曜日

本日公休

にわか雨。シネスイッチ銀座にてフー・ティエンユー(傅天余)監督作品『本日公休』を観ました。

皮革のシザーケースに鋏、剃刀、櫛をセットし、シャッターを下ろして、30年もののボルボ240GLのエンジンを掛ける。あちこちぶつけながら車を出すアールイ(ルー・シャオフェン)は台中市の下町にある理髪店主。常連の高齢男性の髪を長年切ってきた。古くからの顧客である歯科医の許先生が危篤と聞き、約20km離れた彰化市の自宅へ出張散髪に向かう。

台北で映像関係のスタイリストをしている長女シン(アニー・チェン)が実家に帰るとシャッターには「本日公休」の札。怪しい儲け話に乗ってばかりで定職に就かず実家暮らしの長男ナン(シー・ミンシュアイ)も、台中の市街地で美容師をしているピンク色の髪の次女リン(ファン・ジーヨウ)も、理髪店にスマホを置き忘れていなくなった母の行方を知らないと言う。

全編を通じてゆったりした時間が穏やかに流れる映画です。母アールイのロードムービーは、常連客たちとのヒストリーに加え、性格の異なる3人の子どもたちも丁寧に描かれる。次女リンの別れた夫で自動車修理工のチュアン(フー・モンボー)がいい。幼馴染同士で結婚したが、優しく利他的で人が良すぎリンに見限ぎられたチュアンは、元義母を気遣い、幼い息子アンアンの散髪を口実にアールイの店を実の娘たちより頻繁に訪れ、その関係性は『東京物語』の原節子と笠智衆にも重なる。

アールイの道中にはいくつかのファンタジックな出会いがあり、旅がひと段落つくと、出発までの過程がチュアンの視点で再度描かれ、それがまた時の流れを心地良く減速させます。

主な撮影場所であるレトロ理髪店は、第37回東京国際映画祭(2024)の監督賞にあたる黒澤明賞を受賞したフー監督の実家とのこと。柔らかな陽光あふれる画面をずっと眺めていたくなる佳作です。

 

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