にわか雨。アンソニー・チェン監督作品『国境ナイトクルージング』を観ました。
凍てついた川の厚い氷をチェーンソーで切り出し流す男たちの頭上には鉄橋が掛かり列車が通り過ぎる。
朝鮮民族式の披露宴の会場に氷を噛み砕く音が響く。噛んでいるのは上海の金融エリート社員ハオファン(リウ・ハオラン)、結婚式に出席するため中国と北朝鮮の国境の町、延吉に来た。心療内科の予約をすっぽかして何度も電話が来るが無視する。
翌日、ハオファンは延吉の観光バスツアーに一人で参加し、スマートフォンを紛失する。ガイドのナナ(チョウ・ドンユイ)は「会社にクレームを入れないで」と現金を渡してハオファンを食事に誘い、ナナに片思いしている料理人シャオ(チュー・チューシャオ)がナナを誘った店に同席させる。泥酔した三人はナナの部屋に泊まり、目覚めたときは1日1本しかない上海便には間に合わない時間だった。そして三人の無軌道なクルージングが始まる。
ナナは足首の大怪我で五輪をあきらめた元フィギュアスケーター。『負けヒロインが多すぎる!』の八奈見杏菜の名台詞「女の子は二種類に分けられるの。幼馴染か、泥棒猫か」を本作の男子に置き換えると、シャオが幼馴染でハオファンが泥棒猫。報われることがなくても健気で無邪気でちょっといい加減なシャオが、ナナとハオファンの無表情をすこしずつ崩していく。だが青春は有限、それぞれの現実に帰る時が来る。
アンソニー・チェン監督はシンガポール出身で香港在住。南国で生まれ育った監督は『燃冬 The Breaking Ice』という原題の本作で、冒頭の凍結した川や氷の迷路、雪道、辿りつけない長白山の天池によって中国の若い世代の閉塞感を、それらを割り、踏み越えていくさまに未来を照らす仄かな光を、象徴的に表現しています。
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