2024年5月11日土曜日

ドレミの歌

夏日。池袋東京芸術劇場シアターウエストにて平塚直隆オイスターズ)脚本・演出の舞台『ドレミの歌』3日目のソワレ公演を鑑賞しました。

下校時間を過ぎた校舎で先生(秋山ゆずき)が割れた窓ガラスの破片をほうきで集めている。2年生の堂上(山口乃々華)が登場し「女子校ってもう少しがさつなものだと思っていましたわ、わたくし」と言う。蓮華(高井千帆)と反町(嶋梨夏)が合流し、高い壁の向こう側に思いを馳せる。

男子校が共学に変わった年に入学した彼女たちは、2年生の2学期になっても男子生徒の姿を一度も見ていない。壁の向こうが見渡せそうな2階より上に行くことは校則で禁じられている。蓮華の幼馴染で風紀委員の水野(横山結衣)が現れ、規則によりこれから1時間は校舎から出られないと言う。トイレ掃除をしていて下校時間を逃した城田(佐々木優佳里)も校舎内に取り残される。

納品業者(田野聖子)を案内する先生についてなんとか上階に上がった女子生徒たちは、3階の音楽室で出会った工業高校からの転校生不破由紀子(須田真魚)に合唱部を作って壁の向こうの男子生徒に歌声で女子の存在を知らしめようと誘われる。

「世の中が訳の分かることばかりだったら、そんな世界は面白くないと思わない?」。カフカの『』を思わせる不条理劇且つスラップスティックコメディ。転校生の女子生徒役を恰幅のいいベテラン男性俳優に演じさせることでファンタジーみを強調する。壁は分断の象徴。ベルリンの壁の東側の若者たちに向けて "HEROES" を歌う1987年のデイヴィッド・ボウイが重なる。

「エロいことばかり考えている女は尋という字を見てもエロしか目に入ってこない」。高校という舞台設定、テンポのいい軽妙な台詞回し、アイドル出身の若手俳優陣の振り切ったハイテンションな芝居、その熱量を受け流す先生のおっとり感で不条理なのに重苦しくない。そもそも壁を越えたいのが、男子生徒と出会いたい、あわよくば恋に落ちたい、若さを無駄にしたくない、という青春過ぎる欲求です。

「あなたは卒業するためにこの学校に入ったの?」という問いかけにハッとする。確かに出口に至るためだけに入口に立つのではない。過程を存分に味わい楽しむために私たちは生きている。そんなことに気づかせてもらいました。

蓮華役の高井千帆さんは『幕が上がる』とも『魔法歌劇アルマギア Episode.0』とも違うラウド系の役柄を全力で演じています。体幹の通った立ち姿が上品ですが、グループ在籍時から思い切りの良さはメンバー随一。お芝居の面でも今回更に一皮むけたのではないでしょうか。

劇中歌の違う「♯」「♭」の2パターンが上演され、僕が観た「♯」は、オッフェンバック天国と地獄ベートーヴェン第九でした。歓喜の歌の主旋律ってたった5音でできているんですね。おどろきです。


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