2025年8月13日水曜日

ギルバート・グレイプ

真夏日。新宿武蔵野館12ヶ月のシネマリレー』にてラッセ・ハルストレム監督作品『ギルバート・グレイプ』を観ました。

「アーニー、チキンは?」「チキンはいらない。コーンは食べる」。ギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)は幹線道路脇の草むらで弟アーニー(レオナルド・ディカプリオ)とキャンピングトレーラーのキャラバンを待っていた。州都デモインの大会に毎年向かう彼らは何もない町を通り過ぎるだけ。

だがその年、ベッキー(ジュリエット・ルイス)と祖母(ペネロープ・ブランニング)を乗せたトレーラーだけが、キャブレーターの故障によりエンドーラに留まることになる。

父の自死以降自宅の居間を出ず体重が200kgを超えた母ボニー(ダーレン・ケイツ)、勤務先の火事で職を失い家事を一手に引き受けている姉エイミー(ローラ・ハリントン)、吹奏楽部に所属する反抗期の高校生の妹エレン(メアリー・ケイト・シェルハート)、重度知的障害の弟アーニー、5人家族の暮らしを個人経営の食料品店の給料で支えるギルバート。10歳まで生きられないと医者に言われたアーニーの18歳の誕生日までの夏の一週間を描く、気まずさと優しさに溢れた作品です。

スウェーデン出身のハルストレム監督が1993年に撮ったこの映画をいろいろなメディアで何度観たかわかりません。前回は2022年8月に池袋シネ・リーブルのリバイバル上映に行きました。繰り返し観ても新しい発見があるのは、自分が変化しているからでもあると思います。

わずか一週間に一年分にも相当するような出来事があり、それが無理なく自然に繋がっていきます。コスプレしていないジョニー・デップとひょろひょろのディカプリオ、サイコ系以外のジュリエット・ルイスの主役3人の芝居の非の打ち所のなさはもちろんですが、ギルバートといつもつるんでいる幼馴染、葬儀屋のボビー(クリスピン・グローヴァー)と修理屋タッカー(ジョン・C・ライリー)の地元のツレ感、ギルバートの雇用主であるラムソン夫妻の哀しみ、バーガーバーンの開店祝いのステージで "This Magic Moment" を演奏するエレンのブラスバンドの絶妙な下手さ、炎や水の寓意に満ちたカット、ロングショットの多用による茫漠とした寂寥感と自然美の共存に痺れました。

家族のことばかり考えて、自我を表現する言葉を持たないギルバート。彼らの暮らすアイオワ州はトランプ大統領の再選時に注目されたラストベルト3州の西側に隣接しています。かつては機械工業で栄えたラストベルトより、過去一度も隆盛を経ていない更に忘れ去られた土地に生きるホワイトトラッシュの閉塞感が、政治的には保守化に向うのが、肌感覚でわかります。

 

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