2025年9月3日水曜日

不思議の国でアリスと Dive in Wonderland

9月の熱帯夜。丸の内ピカデリー篠原俊哉監督作品『不思議の国でアリスと Dive in Wonderland』を観ました。

「みんなと同じようにしているのにうまくいかないんだよね。今日はそういうの全部忘れたくて来たから」。就活に悩む大学4年生の安曇野りせ(原菜乃華)はローカル線を乗り継いで、亡き祖母(戸田恵子)が遺したテーマパーク "Wonderland" を訪れる。完成間近のパークは祖母が大好きだった『不思議の国のアリス』の世界を体験できるというもの。

個室に通されたりせがテスト運用中のVRデバイスを装着すると、正装した白ウサギ(山口勝平)が現れ、りせのスマホを持ち去ってしまう。りんごに姿を変えたスマホを取り戻すために白ウサギを追いかけて、りせは不思議の国に迷い込み、小さなアリス(マイカ・ピュ)に出会う。

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』をベースに置いてはいますが、まったく別のお話、架空のVRアトラクションのアニメ化と考えるべきだと思います。

自己肯定感、同調圧力、SNS、就活、現代の若者が直面する様々な課題をVR内の体験による成長で克服しようということなのですが、どんなに振り回されても、空中で放り出されても、水流に巻き込まれても、ハートの女王(松岡茉優)に首を刎ねよと脅されても、冷静に考えれば、試験運用中とはいえテーマパークのアトラクションという安全が確保された空間内での体験以上のものではないんですよね。もちろん映画を観ている我々もスクリーンのこちら側という二重の安全圏にいるわけですが。

「へんてこなことが起きたあとって、普通のことがつまらないわ」。原作のアリスは想像を絶する出来事に戸惑い、それが度を越して開き直り、また不思議の国の喧騒を冷ややかに傍観したりするのですが、本作のアリスはシャイな主人公りせをVRアトラクションにどんどん引きずり込む積極的なキャラで、日米ハーフの子役マイカ・ピュさんの明るい声質がよく合っています。主人公りせを演じた原菜乃華さんも発声が明瞭で聴き取り易かったです。

P.A.WORKSの優しい色調のカラフルなアニメーションも目に楽しい。肥大化した承認欲求が爆発して半透明になった主人公りせとその背景を墨絵風に描いた対比も効果的でした。

全11Chapterで構成されていて、第10章の "In The Court Of Crimson Queen" はキング・クリムゾンロバート・フリップの配偶者TOYAHのアルバムタイトルですね。コトリンゴさんの劇伴、小林うてなさんの劇中曲、SEKAI NO OWARIエンディングテーマもそれぞれよかったです。

 

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