「アメリカ合衆国の国旗に私は忠誠を誓う」と勇ましいマーチで映画は始まり、性交後のティーンエイジャーのカップルを映し出す。トロイ(ジャック・アーヴ)のつまらないジョークにリリアン(タリア・ライダー)は無表情で舌打ちをする。
米東海岸南部サウスカロライナの高校生リリアンは修学旅行でワシントンD.C.に来た。お揃いの黄色いTシャツではしゃぐクラスの一軍を横目に終始ローテンション。夜にホテルを抜け出した数人で来たカラオケ店でリリアンはトイレの鏡に向かって唐突に歌い始め、鏡越しに蠱惑的なまなざしをカメラに向ける。そしてギークによる突然の銃乱射。
パンクスのケイレブ(アール・ケイヴ)の手引きで鏡の裏側にある隠し扉から救出されたリリアンは、ANTIFAの車でチャームシティ・ボルティモアのアジトに連れて行かれる。翌日ケイレブたちが右翼の政治集会を潰しに行くのに同行したリリアンはネオナチの大学文学部教授ローレンス(サイモン・レックス)と知り合う。
ネオナチの資金を持ち逃げしたリリアンはインディース映画の黒人女性監督(アヨ・エデビリ)にスカウトされるが、撮影現場をネオナチが襲撃してカオスに。今度はムスリムの青年モハマド(リッシュ・シャー)に助け出される。
アメリカの政治的分断と醒めた目で見るZ世代。その温度差が喜劇になる。鏡の向こう側の冒険、主人公は基本受け身でイカレた大人たちに振り回されているように見えてその実、大人たちのほうがリリアンの無関心に翻弄されている。邦題のサブタイトルの通り『不思議の国のアリス』を下敷きにして、サウスカロライナ、ワシントンD.C.、メリーランド、ニューヨーク、バーモントと米東海岸を北上するロードムービーでもあります。
町山智浩氏の解説動画付きで観たのですが、アメリカンサブカルチャーに精通していないと細部の理解は難しいです。日本に置き換えるとTVアニメ『全修。』か。こちらは政治的ではないですが、そこで日常を送っていれば、引用や隠喩が空気感としてある程度認識できるという点で。
本作においては、主人公リリアンを演じるタリア・ライダーの魅力と映像美で押し切った感があります。主人公が着ていたレッドツェッペリンのTシャツを、失踪を報じるニュースキャスターがエアロスミスと伝えるのに、マスメディアに対するこじらせが表れていてよかったです。
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