遠くから土鳩の鳴き声。伊トスカーナの丘陵にオリーブ畑が広がっている。丘の上の森の中に原色のオブジェ群はタロット・ガーデンと呼ばれている。その作者である現代美術作家ニキ・ド・サンファル(1930-2002)の生涯とタロット・ガーデンを紹介するドキュメンタリー映画です。
監督は写真家の松本路子。1970年代後半から女性アーティストたちのポートレートを世界中で撮影る中で、1981年6月にニキ・ド・サンファルとパリで出会う。
統合失調症のセラピーの一環として美術作品の創作を始めたニキだが、1961~1962年の射撃絵画、1963~1964年の半平面作品の時代は、いずれも性的抑圧に対する憎悪を表現の核としている(最晩年の自伝で実父から性的虐待を受けていたことが明かされた)。1965年に登場するナナと呼ばれる土偶にも似たフォルムを持つ原色の巨大な女性像には、憎悪から解放へと大きな転換が見られる。
現代美術作家ニキ・ド・サンファルの経歴をクロニクルに辿り、且つ、ベルギーのコレクター、ロジェ・ネレンスの自宅庭園に制作した「ドラゴン」と1978年から没年までトスカーナで制作した彫刻庭園「タロット・ガーデン」に重点を置いて成立過程と細部を映し出す。
ニキ・ド・サンファルの作品は、フェミニズムの視点とアール・ブリュット/アウトサイダー・アートの視点の両面から今後も論じられていくことになると思います。本作においては前者にウエイトを置いていて上野千鶴子のコメントを撮影しているのですが、もう一歩踏み込みがあってもよかったのではないでしょうか。
写真家が監督していることもあり、フレームワーク、アングル、自然光中心のライティング、作品を自由に楽しむ観客たち、特に子供たちの表情、など映像は素晴らしく、現地で作品に触れているような臨場感がある。半面、小泉今日子と松本監督の二声のナレーションは役割が整理されておらず少々困惑します。
存命中から美術界で評価され、商業的にも成功していたニキは、日本中いたるところに作品があります。同世代の草間彌生にも似て商魂たくましく映るかもしれませんが「(パトロンの意向や貧困による制約を受けず)自分のやりたい芸術を実現するために自分の作品で稼ぐ必要がある」という発言にハードコアなDIY精神を感じました。
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