2024年3月23日土曜日

12日の殺人

小雨。ヒューマントラストシネマ有楽町ドミニク・モル監督作品『12日の殺人』を観ました。

2016年10月11日土曜日。フランス南東部グルノーブルの警察署で老リーダーの定年退職式が行われ、主人公ヨアン(バスティアン・ブイヨン)が新班長に任命された。

翌10月12日午前3時。グルノーブル近郊の瀟洒な登山口の町 Saint-Jean-de-Maurienne。親友ナニー(ポーリーヌ・セリエ)の自宅のいつもの女子会から帰宅する夜道で21歳の大学生クララ(ルーラ・コットン=フラピエ)は何者かに突然ガソリンを掛けられ、生きたまま焼き殺される。

ヨアンのチームが殺人事件の捜査を担当することになるが、複数浮かび上がる容疑者を訪ねてもどれも決め手に欠ける。実際に起きた未解決事件を題材にしたこの作品は、真犯人を見つけ動機を明らかにしてカタルシスを得る映画ではありません。

娘が殺されたことを母親に告げる際の葛藤、聞き込み、張り込み、取り調べなどに加え、憲兵隊と警察の不明瞭な分担、PCのキーボードを叩いて膨大な調書を作成する、コピー機の紙詰まりにいらいらする、配偶者との関係の悩み、刑事たちの日常とそこで受けるストレスが詳細に描かれる。新米班長ヨアンとベテラン熱血刑事マルソー(ブーリ・ランネール)のバディものの要素もあるが、男同士の絆よりも証拠収集手続きの適法性が優る。

フェミニズム映画としての側面も持つ。容疑者は全員がクララと性的関係を持ったことのある男性で、なぜクララは殺されたのかと聞かれたナニーは「女の子だから」と答える。一度は断念した捜査を3年後に再開させたのは女性判事ベルトラン(アヌーク・グランベール)、初めて配属された女性キャリア警察官ナディア(ムーナ・スアレム)は「いつも男が殺して、男が取り締まる」と、刑事課のオールドボーイズネットワークに一石を投じる。

主人公ヨアンのストレス解消法は夜間に自転車できつい傾斜のトラックを全力疾走すること。その堂々巡りは進展しない捜査の隠喩になっている。終盤でロードに出て山道を走るシーンの解放感。事件は解決しませんが、後味は悪くないです。

  

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